2008年12月02日

気まぐれ雑記帳 2008-12-02 失われた未来

 
 昨日、岡田斗司夫著の「失われた未来」(2000年 毎日新聞社刊)を読了した。
 簡単に言ってしまえば、これは未来に対する世界の勘違いを検証した書であり、それを事実と思い込まされてきた人々の悲喜こもごもをも同時に綴っている。
 「ロボット駅馬車」の項目で扱われているハリー・エントンの小説「フランク・リード・ライブラリー」が描く未来は「無限に発達する蒸気機関。この素晴らしいボイラーの力で世界は変わる。やがてロボットの馬が駅馬車をひっぱり、果てしない荒野を駆ける日が来るに違いない」というものだった。挿し絵では、蒸気機関で動く鋼鉄の馬が駅馬車を牽引して荒野を疾走している。
 しかし、著者は昔の人の想像力を笑うわけにはいかないと書いている。なぜなら現代人の未来予測もこれと大差ないに違いないだろうという主張があるからだ。
 あまりの面白さに他の項目も全編紹介したいところだが、今日のテーマは本書にあるのではない。失われた未来は、多かれ少なかれ私たち個人ひとりひとりにもあるのではないか。
 そんな今日は、すでに30歳を過ぎた人たちが対象である。
 自分の人生の設計図を具体的に思い描き始めた頃の未来予測と今の人生との落差を思い浮かべることができるだろうか。
 世間一般には“過去に未来予測した人生と現在の自分とのズレ”を“挫折”という鬱屈した言葉で呼ぶ。今の人生は挫折した結果ではなく、現実である。果たして現代の高速輸送機関は、ロボット駅馬車が“挫折”した結果なのだろうか。ロボット駅馬車を無理矢理実現させていたら、現代は大変困った世界になっていたことだろう。挫折というのは、未来予測のほうが正しかった場合に用いるべきだ。実際、そういうこともあったに違いない。自分のせいではなく、抗しがたい力、たとえば事故や病気によって望みが絶たれてしまった場合などである。
 私たちは幻の“ロスト・フューチャー”などに惑わされることなく、現実認識の重要性に目を向けるべきではないか。未来に対応する前に、現実に対応するのである。
 私自身について言うと、性格的な“欠陥”からか、自分の未来がよく分からない。将来に対する危機管理の重要性だけは分かるので、保険に加入するなどはするのだが、具体的な未来を思い描くことがない。それは根拠のない自信によって「今日よりも明日のほうが人生は上向くのではないか」というような気がするためなのかも知れない。また「人を使わず、人に仕えず」という信条のために、他人の考えによって人生が左右されることも少ない。よって、挫折という言葉には昔から違和感があった。もうひとつつけ加えると、過去への執着もほどんどない。「昔は良かった」などと思うことは稀で、常に「今も馬鹿だけれど昔はもっと馬鹿だった」と思う程度である。
 しかし、自分の未来が分からないとはいえ、どうなっているのかは楽しみだ。じっと待っていても望んだ未来はやってこないことだろう。現実の積み重ねだけが未来を作る。言葉にすると薄っぺらなので自分でびっくりしたが、それしかない。
 高校1年の時から大学を卒業するまでにFM番組から録音したカセットテープは少なくとも2000本に及んだ。いつの間にか、書物からではなく実際の音楽で音楽史を理解した。数多くの曲を聴く一方で、たった1曲の交響曲を、その7年間を通じて毎日最低でも2回は聴きつづけた。それでオーケストレーションに必要なクリアリティや音響に関するセンスを、文字からではなく、実際の響きから学んだ。学業は必要最低限の勉強でぎりぎりクリアし、アルバイトに時間を割き、毎日作曲した。ところが努力らしい努力は何もしていない。それが生活そのものだったからだ。だから続いた。そして実は、内容は変化したものの、同じような生活が今も続いている。
 私自身の意識の中では1年、時には3日で思いもよらぬ進歩が生じることがある。その都度、私にとっての“ロスト・フューチャー”が起こる。だから自分の未来は予測することができない。
 30歳を過ぎれば、未来予測がいかに当てにならないかを理解してくることだろう。特に、組織や社会制度に依存すると運不運の占める割合が増えてくる。他人の判断に振り回されるからだ。
 未来を見据えることは非常に重要で、それなしに有意な人生を送ることはできないが、それは未来に備えるということであって、あらかじめ未来をがんじがらめに規定してしまうことではない。私たちは、唯一自分でどうにかすることのできる“今”を充実させて、その結果やってくる予測不可能でフレキシブルな未来を楽しみに待つべきだろう。

 野村茎一作曲工房
 
posted by tomlin at 15:59| Comment(1) | TrackBack(0) | 気まぐれ雑記帳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by 元塾講師による悩みスッキリ塾!の中里 at 2008年12月03日 00:21
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